《窓辺で手紙を読む女》修復プロジェクト

Exhibition Highlight

本当の姿は
隠されていた-。

1742年にザクセン選帝侯のコレクションに収蔵されたフェルメールの初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》は、ドレスデン国立古典絵画館が誇る至宝のひとつです。この作品の手紙を読んでいる女性の背後の壁に、キューピッドの画中画が隠されていることは、1979年、サンフランシスコでの展覧会に出品された際に行われたX 線調査で判明していました。(*画像1)そしてこの構図上の大きな変更を行ったのは画家本人であるというのが、研究者たちの考えでした。
2017年3月、ドレスデンで専門家の委員会が招集されました。委員会は作品の状態について議論を交わし、保存計画を作成。それに沿って、作品を覆っていた古いニス層を取り除き、汚れを落とす作業が開始されました。しかし、溶媒を用いてニスを取り除く作業を進めていた修復師たちは、あることに気づきます。キューピッドの画中画を上塗りした部分とそれ以外の部分で、溶媒への反応が違ったのです。そこで、絵具の微小なサンプルをいくつか採取し、科学調査を行うことになりました。

© Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden;
Fine Arts Museum of San Francisco; © SKD, photo: W. Kreische

調査の結果、キューピッドの画中画部分に塗られた最初のニスの上に汚れの層があり、その上から絵具で上塗りをしたことがわかりました。また、キューピッドの画中画の表面には、長年空気にさらされたために出来たと思われるひび割れがあることも確認されました。これらのことは、汚れの層やひび割れが出来るほどの長い間、キューピッドの画中画が上塗りされずにいたことを示しています。
さらに、作品を覆う古いニスと汚れを落とした結果、上塗りした壁の色と、周囲の壁の色に明確な違いが現れました。周囲の壁が白く輝いているのに対し、上塗りの壁は茶色味を帯びた濃い灰色でした。これは上塗りをした時点ですでにニスが変色し、周囲の壁も茶色味を帯びて、その色に合わせて上塗りの色を決めたためだと考えられます。つまり、キューピッドの画中画を上塗りした時点で、この絵画はすでに完成から少なくとも数十年は経っていたということです。フェルメールが亡くなったのは、この絵を描いてから17年ほど後になりますが、今回判明した事実は、明らかにそれ以上の時間が経過してから上塗りがされた、つまり画家本人による上塗りでないということを示していました。

© SKD, photo: Kreische/Boswank

2017年12月、専門家委員会の提言を受け、所蔵館は上塗りの一部を試験的に取り除くことを決定します。手作業によって上塗りの絵具層を取り除く作業が慎重に進められました。(*画像2)その結果、隠れていた画中画部分の状態は極めて良好で、フェルメールが描いた当時の状態を残していることがわかりました。この結果を受け、2018年2月にすべての上塗りを取り除くことが決定されます。2019年5月には、画中画を隠したのが画家本人ではなかったという調査結果を公表するとともに、キューピッドの画中画が半分程度露出した、修復途中の作品が公開されました。(*画像3)そして2021年9月、長い修復を終え、画家が描いた当初の姿が所蔵館でお披露目されたのです。

では、いつ、だれが、何のために上塗りを行ったのか。
残念ながら明確な答えはわかっていません。キューピッドの画中画が良好な状態であることを考えると、損傷を隠すといった保存上の理由ではなく、一時的な趣味や流行の変化といった美的配慮によるものだったのかもしれません。注目すべきは、この絵が1742年にドレスデンのコレクションに加わったときの手紙の中で、作者がレンブラントとされていたことです。18世紀当時、フェルメールは現在のように名の知られた存在ではなく、対してレンブラントは存命中から高く評価され、没後もヨーロッパ中で絶大な人気を誇りました。ドレスデンのコレクションに入る際、より「レンブラント風」に見せるために画中画が隠された可能性も考えられます。いずれにせよ、今後の調査、研究によってこれらの謎が解明されることが期待されます。

© SKD, photo: Kreische/Boswank

《窓辺で手紙を読む女》の修復

  • 1968年

    ヘルマン・キューンによる顔料の調査

  • 1979年
    2月15日

    サンフランシスコにてX線調査
    壁の下にキューピッドを描いた画中画が存在することが確認される

  • 1980年
    5月8日

    ドレスデン国立古典絵画館でのX線調査

  • 2004年
    8月18日

    同館修復室のクリストフ·シェルツェルが最初の保存計画の構想を発表

  • 2009~10年

    新たにX線と赤外線による絵画の分析
    顕微鏡(マイクロスコープ)を使用した調査

  • 2017年
    3月

    専門家による委員会を招集し、保存計画を協議ニスの取り除きと修復の決定

  • 8月

    クリストフ・ヘルム教授による絵具サンプルの調査結果が報告される

  • 8月22-25日

    ドレスデンにてマクロ蛍光X線分析

  • 12月

    委員会の勧告に従い、所蔵館が実験的に上塗りの除去行うことを決定

  • 2018年
    2月

    上塗りの除去を継続することが決定

  • 2019年
    5月7日

    上塗りがフェルメール以外の人物によるものであったという調査結果を公表
    その後6週間に渡り修復途中の作品を所蔵館で展示

  • 2021年
    9月

    修復を終えた姿をお披露目